『理系のためのクラウド知的生産術』堀 正岳 (著)

Lifehacking.jpの堀正岳さんの新刊です。

 iPhoneやEvernoteなどのツールに関する書籍を多数執筆されている堀さんですが、今回は本業である理系研究者に向けての書籍です。

 増え続ける情報の量に翻弄されるのはビジネスマンだけではないようで、理系研究者もその例に漏れません。企業であれば、いまだに、電話や紙が仕事のベースという事ももしかしたらあるかもしれませんが、理系研究者の場合、皆さん当然PCやメールは使うでしょうから、その情報爆発の量はビジネスマン以上に深刻かもしれません。

これを著者の堀さんは、「情報洪水」と前書きで言っています。

洪水といえば、河川の流量が一時的に増えて、本来は川でないような場所にまで水が押し寄せる現象ですが、このメタファーに例えて本書を分類してみると

●情報の治水
洪水を防いだり被害を最小限に食い止めるには、水量を管理しコントロールする治水が必要です。
この辺は、gmailを導入や活用し情報の流量をコントロールしたり、メンデレイで論文を管理することが相当するでしょう。


●情報の利水
河川の水は抑えて災害を防ぐだけでなく、田畑や工場で活用されたり、飲料水などとしても利用され、私たちは多大な恩恵を受けています。
情報もコントロールするだけでは、意味がありません。情報は活用し、アウトプットして成果となります。
この辺は、EvernoteやDropboxでの情報の利用、さらにはGoogleDocsやSkypeを活用した共同研究の部分が参考になるでしょう。


●情報の親水
河川には、治水や利水だけでなく、親水という言葉もあります。
川を畏れたり、便益のために利用するだけでなく、率先して河川に親しみ遊んだり癒やしを得、私たちの生活を文字通りみずみずしいものにします。
これは、仕事に必要だからツールや情報をいやいや使うのではなく。能動的に新しいツールを探したり、現在使っているツールのさらなる活用法に磨きをかけ、それ自体も楽しみにすることが相当するでしょう。

と、堀さんの洪水のメタファーにかけて書いてみました。

ただ洪水は河川などの水位が普段より上がったりといった異常時に起こりますが、情報洪水の場合は、数日といったレベルの一時的な異常事態ではありません。数年はこのままでしょうし、今よりももっとひどくなる可能性もあります。

今が定年間際の方は、じっと洪水や嵐が過ぎ去るのを待つという手もあります。いきなり新しいやり方を模索するよりも、向き不向きもあるでしょうから現在のペースでやった方がいいこともあるでしょう。

ただ、まだままだこれから成果を出したいと思っている人にとっては、クラウドの活用が不可欠です。

というのも、従来の理系研究者であれば、学内・研究所内での徒弟制度や一匹狼的なスタイルでもある程度の成果はあげられたでしょう。

しかし、本書の「第5章 クラウド上で論文を書く」「時間も空間も超えるコラボ術」を読むと、組織の枠を超えた共同研究というものが、クラウドツールの発達により、少なくともツールの面ではだいぶ垣根がなくなっているように感じます。

そのような時代において、孤軍奮闘したり、狭い研究室の枠組みの中だけで、太刀打ちするのは、素人目にもどうにも不利なように思えます。


共同研究をすることにより、研究の成果をあげるという一義的な目的を達成するということはもちろんのこと、有能な諸先輩方と一緒に仕事をし、その仕事の技術を盗むという副次的ですが大きな効果も得られると思います。

その、スタートラインに立つために本書はあると思います。

研究を続けていると、このままこの研究を続けていてどうなるのだろうかという孤独感にさいなまれたり、逆に研究の本質と関係ない学内政治などに巻き込まれて「そういうの嫌だから研究者になったのに…」と思うこともあると思います。

本書を読んでバリバリと研究に励んで、そういう悩みを感じる暇もないような研究生活が送れるといいですね!

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理系のためのクラウド知的生産術 (ブルーバックス)
堀 正岳 (著)
出版社: 講談社 (2012/1/20)


目次
第1章 クラウドサービスを使った仕事環境
第2章 メールに振り回されない環境をつくる
第3章 手間をかけない論文管理法
第4章 アイデアをなくさない情報整理法
第5章 クラウド上で論文を書く
第6章 時間も空間も超えるコラボレーション術
第7章 細かい時間を稼ぐテクニック集



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