塀の中の知的生産の技術 「獄中記」佐藤優著

新年早々穏やかではないタイトルの本で失礼。


年末に幻冬舎新書の手嶋龍一氏と佐藤優氏インテリジェンス 武器なき戦争を読んで以来、年始は佐藤優氏、鈴木宗男氏、手嶋龍一氏の本を読んでおりました。


本書は、文字通り佐藤優氏の獄中日記なわけですが、閉ざされた空間での知的生産の部分が非常に興味深い。
鈴木宗男氏と外務省との関係や佐藤氏の逮捕のきっかけとなった事件については国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれての方が詳しいです。

ご存知の方も多いかと思いますが、佐藤優氏は外交官の一方、神学研究家でもあります。
その、佐藤氏が拘置所の独居房という空間の中で黙々と研究にいそしむ姿はまさに修道院の中のストイックな修行僧のようです。

本書の大半も事件の事よりも自分の拘置所内での研究の進捗状況が記述されています。
昔の修道院での読書の方法や、速読の限界、学術書の精読の方法などおよそ「獄中記」というタイトルからはおよそ想像もつかないほど、知的生産の技術や読書法についてページが割かれています。

そこで、紹介されている参考文献も実に興味深い。また、紹介の仕方も素晴らしい。
「ドイツ語ならこれを終わらせたら大学院入試レベルはほぼ大丈夫でしょう。
チェコにおける社会主義の中の神学会の状況はこの3冊が詳しいです。」
など、全然、神学や哲学に興味の無い私でもつい読みたくなってしまいます。
それだけ、自信を持って言い切ってるんだろうなぁ。外務省のラスプーチンからアサマシテクを学ぶとは思わなかったよ。

拘置所の中では、差し入れの本の量や質に制限がありますが、(一度に持てる本は10冊)それでもアウトプットの量は、1日にA4の用紙は50~60枚、ボールペンは一週間で使い切るというから驚きです。

日頃、情報の洪水の中でインプット過多な俗世間に生きていると情報の取捨選択だけで疲れてしまいますが、こうしてゆっくりと自分の好きな本を腰を据えて読む事が出来る環境はうらやましいですね。拘置所暮らしはいやですが…

読書の醍醐味は自分の体験できない世界を知る事と思いますが、本書もその醍醐味を充分に堪能させてくれました。

獄中記
獄中記
佐藤 優 (著)
塀の中でも頭がいい人は違うね。


インテリジェンス 武器なき戦争
インテリジェンス 武器なき戦争
手嶋 龍一 (著), 佐藤 優 (著)
ゴルゴ13や007の世界です。


国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて
国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて
佐藤 優 (著)

事件については、こちらが詳しいです。
2005年3月に発売されたときに読んでおけば良かったと少し後悔。
少なくとも小泉政権のときに読んでおきたかった。

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